top of page

「自分の生活」が最強のネタ帳になる——AI時代にライターが生き残るための企画術


夕刊タブロイド紙・日刊ゲンダイで、20代の頃から仕事をしている。通称「おやじ新聞」。サラリーマンのおじさんたちが、かつては電車の中で広げて読んでいた紙の新聞で(今も紙版はある)、ちょっとエッチな記事もあれば、真面目な社会ネタもある、そんなごった煮のような媒体で、僕は30年近く、ずっと中高年サラリーマン向けの企画を考え続けてきた。


ちなみにタブロイド紙とは、一般的な全国紙などのサイズの約半分の大きさである「タブロイド判」の用紙を使った新聞のことで、このサイズを使っていたイギリスの大衆紙がゴシップやスキャンダルな記事を多く扱っていたことから、転じて「大衆紙」や「ゴシップ中心の報道スタイル」を示す言葉としても使われている。


だから自分で言うのもなんだが、「おじさんの気持ちが日本で一番わかるライター」だという自負がある。


面白いのは、実際に自分がその「おじさん」の年齢になってみてわかったことだ。人は、自分のことを「おじさん」だとは思っていない。気持ちの上では、実年齢よりだいたい10歳は若いつもりでいる。


これは、企画を考えるうえで重要なヒントになる。


「届かないけど、憧れる」がネタになる


かつてグルメ企画を担当した時だ。読者は40代、50代の男性。油っぽいラーメンやとんかつは胃にもたれるのでは?と編集長にいうと、こう切り返された。


「食べられないんだけど、食べたいと思わせることが大事なんだよ」


デートスポットの企画も同じだった。読者の実年齢より少し若い、30代・40代くらいが行くようなお店を好んで選んだ。今の自分にはちょっと合わないかもしれないけれど、「行ってみたいな」と思わせる場所を選ぶ。実年齢より少し上のところに憧れを見せるのではなく、感覚年齢より少し若づくりしたところに憧れを見せる。「10歳若く設定して、憧れを持たせる」という企画の作り方を、ずっとそうやってきた。


ところが、実際に自分がその年代になって、企画を考えるとき、つい年相応のことを考えてしまう自分がいる。あれだけ「10歳若く設定する」と肝に銘じていたたのに、いざ自分がその年の瀬に立つと、等身大の企画のほうがしっくりくる。


これは矛盾なのだろうか。いや、昔の考え方が間違っていたのか。それとも、今も変わらず10歳若い気持ちで企画を考えるべきなのか。


そもそも「10歳若く設定する」という発想自体が、若い世代から見た年上へのアンコンシャスバイアスだったのかもしれない。若い世代が見る50代は、実際より一段上の、60代くらいの感覚で見えていたのだろう。子供の頃、30代の大人がすでに「おじさん」に見えていたのと同じように。だとすれば、自分がその年代の当事者になった今は、等身大の感覚のままでいいのかもしれない。


結論は出ない。企画に唯一の正解はないし、10歳若く見せるアプローチも、等身大で見せるアプローチも、どちらもあっていいのだと思う。


「かつて想像するしかなかったネタ」が、いま自分の身の回りに転がっている


いずれにせよ、僕自身が50代になることで、おじさん向けのネタを考える状況は大きく変わった。


昔は「40代・50代の読者はこういうことに興味があるだろう」と想像するしかなかったが、今は、想像する必要がない。自分自身が今、何に興味を持ち、何に悩み、何を課題だと感じているか——それがそのままネタになる。つまり、「一次情報」は自分の身の回りや自分の頭の中に転がっているのだ。


たとえば最近の僕の興味はこんな感じ。


  • 賑やかなビストロより、蕎麦屋やしっぽりした小料理屋、スナックに惹かれるようになった。出張先で一人になったとき、地元のスナックに入りたくなる。


  • 「75歳を人生の体力・知力・財力のピークに持ってくる」という目標を勝手に掲げていて、老いに抵抗するための先回りした健康法に興味がある。


  • ずっとオートマ限定免許で、エンジンの仕組みもボンネットの開け方も知らない。ブームの旧車に乗ってみたいと思い始めたが、「エンストしたらどうする」「パンクしたら」というレベルからつまずく。だからこそ「今さら聞けない車の基礎知識」を知りたい。


    自分にとって切実で、同じような大人はきっと他にもいる。かつては足で稼ぐか、想像で補うしかなかった一次ネタが、今は自分の生活そのものの中に転がっている。ありがてえ。


「誰か一人が知りたいなら価値がある」——ブログ黎明期に教わったこと


とはいえ、自分のことを書いてネタになるのか? というジレンマがつきまとう。だし、これは今に始まった話ではない。ブログが盛り上がり始めた10〜15年前、僕はずっと職業ライターだったこともあり、「お金にもならない日記を書いて何になるんだ」「オチもない日常の話を誰が読むんだ」と正直、ぴんときていなかった。


あるプレスツアーで泊まった宿の相部屋で、当時活躍していたブロガーにこぼしたことがある。すると、こう返ってきた。


「あなたのちょっとしたどうでもいい情報を知りたい人は、必ずいるんです。1人でもいるなら、価値はあるんです」


当時は半分わかったようなわからないような気持ちだったが、今になって、ようやく時代がその言葉に追いついてきたと感じる。


かつてのオールドメディアやウェブメディアの企画は、じっくり作り込み、取材して、写真をきれいに撮って──という「重い」作り方が主流だった。しかし今は、細かい情報を小出しにしながら、数を積み重ねていく方が強い。一次情報の「加工」と「流通」のハードルがAIとネットで下がった今、求められるのは大がかりな特集記事より、身近で具体的な小さなネタの集積だ。


団塊ジュニア・氷河期世代という「今がチャンス」の読者層


もうひとつ、書き手として意識しておきたいのが読者のボリュームゾーンの話だ。団塊ジュニア・就職氷河期世代は、今の日本で最もボリュームの大きい人口層になっている。経済的に厳しい人も多い一方で、熾烈な競争を勝ち抜いてお金も社会的立場も築いた層は、子育てが一段落し、可処分所得も時間も増えていくタイミングにさしかかっている。


この世代は、なんだかんだ言って「雑誌世代」だ。『メンズノンノ』や『ブルータス』『SPA!』などを読んで育った世代であり、自分でゼロから情報を集めるより、「わかっている誰かがまとめてくれたもの」を求める傾向が強い。編集された記事コンテンツへのニーズは、決して消えていない。


つまり今は、この世代に向けて「自分の身の回りのネタ」を届けるチャンスが大きく開いている時期だと言える。


自分の生活を、切り売りする勇気を持つ


結局のところ、答えはシンプルだ。


自分は今、どの年代にいて、その年代はどんな特徴を持っていて、どれくらいお金や時間を使えるのか。子育て世代なら子育ての経験を、介護をくぐり抜けた経験があるなら介護を、ひきこもりの子どもと向き合ってきたなら、その経験を。


「自分の生活や家族を切り売りしているのではないか」というためらいを、ネガティブに捉える必要はない。むしろ、転んでもただでは起きない精神で、自分の生き様を記事にし、文章にしてアウトプットしていくこと。それこそが、ライターという職業を名乗るなら、これからしっかりやるべき仕事だと思う。


正直、僕自身もこの部分が甘かったと反省している。だからこそ、これからはもっと自分の生活を切り売りして、お金に変えていきたいと考えている。


というより、そうしていかなければ、生き残れない時代になってきているのだと思う、まじで。


(きいてかく合同会社代表/プロインタビューライター いからしひろき)


#きいてかく #一次情報 #AI時代のライター生存戦略

 
 
 

最新記事

すべて表示
noteのインタビューが、まさかのマスコミ取材獲得に──「取材されるnote」のすすめ

今週月曜から木曜にかけて、日刊ゲンダイの人気連載「語り部の経営者たち」に、横浜の総合不動産会社『リアルティ株式会社』山下智弘社長のインタビューが4回にわたって掲載されました。 リアルティは、中古住宅の買い取り再販を中心に、仲介・リノベーション・新築分譲までを手がける会社です。2014年の創業からなんと10期連続増収増益、現在は従業員約60名、グループ売上高は70億円超という、地域密着からここまで伸

 
 
 

コメント


Copyright 2023 Kiitekaku All Rights Reserved.

bottom of page