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きいてかくタネ:19粒め「シニアのため」はあっても「シニアによる」はないよね……同世代・同業者との一夜から生まれた「世代間共創」の夢想(ファンタジー)




先日、同世代のフリーの編集ライターとお酒を酌み交わしました。意外なことに、同世代の同業者との接点は普段あまりありません。この歳になると、担当編集者はたいてい年下です。つきあいのあるライターたちも当然若いです。そもそも、この世代までライターを続けているというのは、かなり珍しいことなのです。


いろいろな意味で、われわれは淘汰されていく存在なのです。収入の問題、健康の衰え、親の介護など家庭の事情。そして、ひそかに大きな理由を占めているのではないかと思われる「好奇心の消失」。多くのことを経験すると、「ああ、何年か前にやったのと同じだ」「たぶんこういう結論になるのだろう」「結局は同じことの繰り返し」と思ってしまいます。好奇心がなければ、この仕事は成り立たないのです。


そして最新技術や環境への適応という課題もあります。特に最近は変化が著しいです。ワードプレス入稿、SEO対策、AI活用。歳を重ねると好奇心とともに新しいものに対する意欲も薄れていきます。「いまさらやっても…」と思えば、新たに学ぼうとはしなくなります。その気持ちはよく理解できます。リスキリングなど、まだ先の長い人生があると思える人の選択肢でしょう。


のっけから重い話になってしまいましたが、歳を重ねることにはもちろん良い面もあります。それはやはり経験知と俯瞰的視点の獲得です。専門分野で長く活躍すれば、誰にも負けない知見と人脈を手に入れることができます。そして、俯瞰的な状況判断力。こんな時はこうすればいいという、失敗しない方法論を身につけています。ただし、それは保守的になってしまうという弊害と隣り合わせです。


久々にパワハラやセクハラについて気兼ねなく本音を語り合い、楽しく飲んだ一夜の翌日、ふと考えました。せっかく身につけた経験と知見、埋もれさせるのはもったいない、と。


一方で、シニア世代は大きな市場でもあります。団塊世代(75歳以上)と団塊ジュニア世代(50歳以上)を足した人数は人口のかなりの割合を占めるでしょう。シニア世代向けの商品やウェブメディアも数多く存在します。


だが、それらをチェックしているうちに気づいたことがあります。「シニアのため」は多いけれど、「シニアによる」ものは意外と少ないのです。実際、私が関わっているシニア向け雑誌の編集担当はみな若い女性です。


率直に言って、そんな若い人に、朝起きるだけで肩や腰が痛くなるシニアの気持ちが、本当に本当にわかるでしょうか。たぶん想像でしかわからないと思います。私も10年前はそうでした。シニアはたぶんこういうことに興味があるのだろう。シニアだからこってりした料理は受け付けないだろう。シニアだからセックスには興味がないだろう。でも逆でした。雑誌のセックス特集やコッテリ油っぽい料理特集で最も反響が多いのはシニア読者からでした。現実的には受け入れられないけれど、せめで雑誌でそういうものを読みたいという「本音」は、当事者でないと分からないと思うのです。


編集作業はハードだからという理由もあるのでしょうが、技術の進歩や働き方改革でずいぶん楽になっているはずです。つまり、年配者でも十分活躍できるはずなのです。


なにより、シニアの気持ちはシニアが一番理解しています。そして、同世代のシニアが活躍している姿を見れば、自分も、と奮起し、労働意欲や購買意欲が増し、結果市場も活性化し、健康にもなって医療費も削減される——そこまで大風呂敷を広げるつもりはありませんが、そんな可能性もあるのではないかと思えてきます。


こうしたことは皆わかっているのでしょうが、実現しないのにも理由があります。おそらく、先に述べた年配者の特性(好奇心や意欲の低下、最新技術への疎さ)があるのでしょう。つまり、若い世代にとっては「やりづらい」のです。


一方で、若い世代向けのメディアも、若い世代のためといいながら、「若い世代による」ものは意外と少ないです。そこには「シニアによる」が少ない理由と似たような事情があるような気がします(つまり、同じように、「やりづらい」のです)。


となると、案外、シニア世代と若い世代が共に作るメディアというのも、奇策ではありますが一つの可能性ではないかと思えてきます。センスの古さや最新技術への疎さは若い世代が補い、知識や経験の不足はシニア世代が補う。お互い支え合い、教え合う。その姿を前面に出す。彼らが本当にやりたい企画、彼らが本当に読みたい企画を作る。彼らに何かを売るための企画ではなく……。


という訳で、「世代間共創ウェブメディア」を立ち上げたいと考えています。いまのところ3つの方法を検討中です。①インクルージョンを掲げる企業のオウンドメディアとして ②そういう企業にスポンサーになってもらう ③クラウドファンディングで実現する。まだまだ思いつきレベルですが、温めてばかりいても前に進みません。だからここに書いてしまいました。興味ある人は手伝ってください。


このように、何か新しいことに挑戦し続けることも、老けない方法の一つだと思います。


ただし、大事なのは決して年上ぶらないこと。自分は若いつもりでも、周りはそうは思ってくれません。そこはつつましく、謙虚に、若い世代に教わる気持ちで接したいです。そう自分に言い聞かせている毎日です。


(きいてかく合同会社 代表社員 いからしひろき)

 
 
 

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