きいてかくタネ17粒め:原作者と制作陣の信頼が生み出した佳作ドラマ『まどか26歳』。インタビュー記事から垣間見る創作の本質
- きいてかく合同会社代表_いからしひろき
- 3月4日
- 読了時間: 6分

## 原作者と制作陣の信頼関係が生んだ話題作
ネット上などでも良い評判に溢れるドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』(TBS系)。実際見てみると、一人の女性研修医の等身大の成長物語というシンプルな軸が明確でブレておらず、変なケレン味がなく、安心してドラマの世界に没頭できる佳作だと感じます。
実は原作マンガの作者である水谷緑氏と私は少しだけ縁があります。かつてお世話になったウェブ制作会社にアシスタントプロデューサーとして在籍しておられ、何度か地方取材にもご一緒しました。その際、イラストも担当されており、随分上手い方だと思っていましたが、やがて独立してマンガ家になったと聞いてから、もうずいぶんと時間がたってしまいました。
フェイスブックではつながっていたので、時折新刊が出たといった投稿を見ては「がんばってるなあ」なんて、偉そうに上から目線で見ていたのですが、ついにドラマ原作だということで、これは完全に追い越された(というか最初から追い越されているのですがw)、これからはら先生と呼ばなければ!なんて思っていた時、もう一つご縁がありました。
私は「きいてかく合同会社」というライターズオフィスを経営していますが、そこに所属してくれている古澤椋子さんというライターが、三度の飯よりドラマが好きで、エンタメライターとして活躍しています。そこでふと思いつきました。水谷緑さんを紹介したら、なんか面白いことになるんじゃないかと。で、さっそくフェイブックメッセンジャーでつなげて、「あとはよろしく」と放っておいてしばらくしたら、「その節はお世話になりました〜」と送られてきたのが、以下の記事のリンクです。
『まどか26歳』原作者・水谷緑が感動した制作陣の“本気” 芳根京子は「応援したくなる」
## 知られざるドラマ制作の裏側
原作者の水谷さんとTBSの松本桂子プロデューサーに、制作の舞台裏を聞いたインタビュー記事です。とても丁寧に聞き書きされた、良記事だと思います。私も知らない、「なぜ水谷緑さんが医療系エッセイマンガを描き始めたのか」というエピソードや、「各診療の取材をしっかりするためにシナリオライター複数人体制で制作されている」といったまさに制作の裏話が盛りだくさんです。原作マンガやドラマ作品のファンならずとも、医療やドラマ制作に興味がある人にはとても読み応えのある記事でしょう。ぜひ読んでみていただきたいです。
個人的に印象に印象に残ったのは、原作者である水谷緑さんが、ドラマの制作チームをリスペクトしているということです。私は20代のころに劇団俳優のマネージャーをしていたことがあり、ドラマや映画の制作の裏側は多少知っているつもりです。漫画や小説を原作とすることは当時からよくあったし、その際は原作とは別のものになることは当たり前でしたし、そうするべきだと個人的にも思っていました。でなければ、単に動くマンガにしただけであり、創作による不確定要素がなくなり、無難なものにはなるでしょうが、想像を超えた作品には絶対ならないからです。そこにこそ原作モノを作る意味と価値があると今も思っています。
しかし、原作者にとって原作マンガは文字通り命を込めた子供のような存在です。思いが深ければ深いほど1ミリたりも変えて欲しくないと思うのは人情でしょう。だからドラマや映画の制作者は敬意をもって原作者や作品に接しなければならないし、実際これまでほとんどの制作者がそうしてきたはずです。そうでなかったことで、原作者が自ら命を絶った出来事があったのは残念でなりませんが、だからといって原作モノは原作と1ミリとてズレてはいけないという風潮になったら創作芸術は衰退するし、そうなっていないのは安心材料です。
もちろん今回のドラマについて、原作者の水谷緑さんが自作マンガに愛情がないわけではもちろんありません。それでも、原作と違うところを、あたかも一ファンのように楽しんでいるのは、きっと松本プロデューサーをはじめとする制作チームが最大限の敬意を水谷緑さんと作品に払っているからでしょう。それが伝わってくる記事です。
## インタビュー相手にも敬意を払うメリット
私はインタビューライティングを生業にしていますが、インタビュイー(インタビュアー相手)への敬意もやはり重要だと感じています。インタビュー記事というと、相手の話した言葉をそのまま書き移していると思っている人も多いと思いますが、実はそうではありません。インタビュー音声を書き起こした「文字起こし」の言葉と、出来上がったインタビュー記事の言葉を比べてみると、結構違っていることは多いです。というか、喋り言葉を書き言葉にする時点で、かなりの翻訳が必要となります。文章としてのテンポや読みやすさい、文字数制限などを勘案すると、時にはかなり大胆な「意訳」も必要となります。
それでもインタビュイーが記事を読んだ時に、「そうそう、こんなことを私は確かに言っていた。思いを形にしてくれてありがとう」と言われなれば、インタビューライターとしては失格だと思っています。ところが若い頃は私も、インタビュイーから「こんなことは言っていない」とちゃぶ台をひっくり返されることがよくありました。今ならそれが、インタビュイーに対して敬意を払っていなかったせいであり、それによってインタビュイーから信頼を得られていなかったからだということがわかります。言ったか言ってないかは本人も覚えていないことがあります。だけど、信頼できない相手が書いた言葉は、実際に言ったのだとしても、「言ってない」と思ってしまうのです。
逆に信頼を得ていれば、実際には言っていないのに、「確かに言った」ということが起こり得るのです。インタビュー記事も創作の一つだとしたら、目指すべきは後者です。だから、インタビュイーから間違いを指摘された時、「いや、実際に言いましたよ。ほら、文字起こしのここ!」などと反論するのはよくありません。文字起こしを確認し、確かに言っていたとしても、静かにそれを懐にしまい「私がわろうございました」と、自分は頭を下げようと思っています。
そんなことを、ふとこの記事を読んで考えました。そういう意味でこの記事は、私個人にとっても大切な作品だと言えます。
ぜひお読みください。
『まどか26歳』原作者・水谷緑が感動した制作陣の“本気” 芳根京子は「応援したくなる」
ちなみに原作者の水谷緑さんのサイン色紙の第一号は私が持っています(こういうところはめざといなあw)。もっともっとビッグになったら、お宝探偵団に出品しますので、ぜひこれからも鋭意創作に励んでいたければ幸いです!
(きいてかく合同会社 代表 いからしひろき)
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