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きいてかくタネ13粒め:「痛い思いをして分かったインタビューの本質」



同じインタビュー相手でも、聞き手によって全く違う内容になるのがインタビュー記事です。文章力の違いもありますが、本質的に「聞き出している内容」が違うという場合もあります。実際、経験の浅いインタビューライターさんのインタビューをはたから見ていると、「なぜその部分を聞かないのだろう?」「あ、そこもう少し深掘りすればいいのに」と思うことは多々あります。つまり「聞くべきことを聞いていない」「踏み込みが浅い」のです。


それを後から本人に直接説明すれば分かってもらえるのですが、第三者にエピソードとして説明するのは難しいです。なぜなら、取材内容については守秘義務があるし、取材の文脈や背景も説明しないと伝わらないからです。しかし今日、プライベートで「インタビューの本質」といえるような経験をしたので紹介したいと思います。


恥ずかしながら、マイカーを私有地内で擦ってしまいました。運良く相手のいない"自爆"なので、大事にはならずに済んだのですが、問題は修理費です。ケチって自損に対応しない保険に入っていたので、全て自腹になります。たまたま車検の時期だったので、ついでにディーラーに見積もりをとらせたところ、何と……とてもここでは書けない、目が飛び出るほどの金額でした。娘が高校に入学することが決まり、その入学金や学費の前払いですっからかんのマイ財布には痛い、痛すぎる!


そこで、近所の修理工場に持ち込んでみたのです。すると、「ああ、この色はうちではできないんです。特殊な塗料なんで」と言われました。そこで私は聞きました「できるところはありますか?」それに対して工場の人は「どうでしょう。難しいと思いますけど、ないことはないでしょうね」との答えでした。


ここで終わってしまったら、「できるところ」を探す手立てはありません。しらみつぶしに電話をかけて、車種や色を説明してできるかどうか聞くしかないでしょう。気が遠くなりそうです。何かヒントが欲しいと思い、そこで私はこう切り出しました。「特殊な塗料って、流通してないものなんですか?」


すると相手は「いや、この●●番という塗料は流通してるんですけど、吹きつけ方に特徴があって、メーカーの講習を受けていないとできないんです。うちはそれを受けていないので」と答えてくれました。なるほど。じゃあ、その講習を受けている修理工場を探せばいいのかと思い、さらに踏み込んで聞きました。「でもそういう講習を受けた工場に、ディーラーを通さないで直接修理を申し込むことは可能なんですか?」


すると「それは大丈夫ですよ」との答えでした。なるほど、見つけることさえできれば、修理は頼めそうです。あとは技術の問題です。さすがに「おすすめの工場がありますか?」とまでは初対面では聞けませんでした。しかし、今回の修理がどれくらいの技術力を要するかぐらいは見当をつけておきたいと思い、そこで僕はこう聞きました。「ちなみに塗装の問題がクリアできたとして、この事態は治せるものなんですか?」


すると相手は傷を見て「ああ、それは大丈夫。板金で治せますよ」と言いました。「でも、ディーラーは●●万円って見積もりなんですけど」と尋ねると、「ああ、ディーラーだと交換になっちゃいますからね」との回答でした。なるほど。見積書をよく見れば確かに交換とあります。これらをもし板金塗装だけで治せるとしたら、いまもよりもかなり安くなるだろうと思いました。


「うちでは無理です」と言われた段階で諦めず、もう一歩踏み込んで質問したことで以下のヒントを得ることができました。

1、塗料の型番

2、流通はしているが吹きつけ方に技術が要する

3、講習を受けた工場なら修理を依頼できる

4、交換ではなく板金塗装で治すことができる

5、その結果、今の見積もりより安くなりそう


もし、もう一歩踏み込んでいなければ、割高な費用がかかっただろうし、娘の高校入学でお金がないので、しばらく放置することになっていただろうと思います。しかし、一歩踏み込んで聞いたことで、修理工場を見つけるのは簡単ではないだろうし、それなりの費用はかかるだろうが、手も足も出ない状態ではなく、次に進むモチベーションととっかかりは得ることができたのですから、上出来です。


これは、インタビュー取材でも言えることで、もしインタビュー相手の回答に対して「そうなんですね」で終わらせていたら、本当は得られるはずの情報を得られず、底の浅い原稿になってしまうでしょう。そこが、インタビューが上手い人と上手くない人の違いなのだと思います。


私は自動車の修理に詳しくなく、修理を依頼しようと思ったのも今回が初めて。しかし、専門知識がなくても、このように聞くべきことを、勇気を持って聞くことで、より深い話が聞き出せたのですから、専門知識の有無は問題ではありません。


では、どうすれば、そうした「一歩踏み込んだ」質問ができるようになるのか。実はそれにもコツがあるのですが……それはまたの機会にお話ししたいと思います!


きいてかく合同会社代表 いからしひろき

 
 
 

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